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博士の愛した数式

博士の愛した数式こんな読みにくい文学小説があるかいっ!?

・・・・・・・私は数学は大キライ。
野球もほとんど興味がない。
にもかかわらず、この本のキーワードはまさしくこの2つ。

80分しか記憶が持たない博士と家政婦とその息子√(ルート)の心の交流を描く「数式」。
数式の意味を問われれば難解だが、お話はとてもシンプルだ。


人間は何かを覚えるときに、まず内容を頭に入れて忘れないように繰り返すという行動をとる。
必要なときに頭の中の引き出しから「記憶」を取り出すわけだ。
学問的には、これらの流れを、「記銘」「保持」「想起」の3段階に区別する。

たとえば104に電話して、「お問い合わせの番号は〜」と言われた時、とっさにメモをとれなかった経験は誰にでもあるだろう。

電話番号を聞く→「記銘」
電話番号を覚える→「保持」
電話をかける   →「想起」

これらの記憶の仕組みを「短期記憶」という。

その行為を繰り返し「再生」や「再認」することで記憶を「保持」していくと、「長期記憶」になる。
つまりこの博士は、「短期記憶」が80分しかもたない、前向性健忘(発症以前の記憶はあるが80分以降は忘れてしまう)という設定になっている。


このような記憶ネタの映画は最近多かった。
メメントの主人公は10分間しか記憶がもたなかったし、50回目のファースト・キスのルーシーも1日しか記憶がもたなかった。
もう飽き飽きしているかもしれないが、この本が他と違うのは、この老人は言葉すくなに数式で「世界」を表していくというところだ。
そしてその「数式」は大切な伏線でありながら、決してでしゃばることもなく、
静かに物語に横たわり続ける。

私は本を読むスピードが速い。
そのスピードと比例して、すっと物語に入っていくかわりに、
1度リズムを乱すとなかなか戻れない。


博士は80分しか記憶が持たない。家政婦が、毎朝出勤すると、
うやうやしく握手をし、

「君の靴のサイズはいくつかね?」と尋ねる。
「24です」と家政婦は答える。


「実に潔い数字だ。4の階乗だ」


彼にとっては、家政婦はいつも初対面であり、数字や数式を呟くことで、
自分との繋がりを確かめながら暮らしている。
読者に、この風景が毎朝繰り返されるのだ、と伝わる良いシーンである。


が、






階乗?





ってなんやっけ?

と、いうレベルで1度思考が止まる。
もう思い出すまで、物語に戻れない。
私としては、実に迷惑である。

もちろん文中に説明はあるので、気にならない人なら平気である。
でも私は気になるのだ。

階乗・・・・・・階乗・・・・・・。
ああ、自然数の総乗ね。
よし思い出した。

と、いう感じで物語に戻るのは全く不本意だ。


阪神タイガースの江夏のことも私はよく知らない。

「なんかドラッグで捕まったことのある野球解説者の人」

というデータが最新情報だ。
そんな始末なので本を読みながら、


「へぇぇ〜江夏って、401奪三振の日本記録もってんの?」


などと言ってしまい、同居人がムッとして演説をはじめてしまう。


こまるのである。
私をどうか早く物語の中に戻して欲しいのだ。
でも、江夏のことも、1992年の阪神タイガースのことも、わかったほうが、より面白いので、ちゃんと聞くのである。
そうするとまた私は物語から離れてしまい、なかなか博士やルートに会いに行けないのだ。


そうこうしながら、結局5,6回は繰り返し読んだだろうか。
そのたびに新しい一文を発見し、数式のもつ文学性も追求したくなり、
物語の中の静かな傍観者として、佇むことができるようになる。
静かにとてもいい本だ。

映画の公開の前に、一読されることをぜひお薦めする。

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